岡山市の工務店 森材木店 注文住宅 リフォーム 岡山県岡山市南区灘崎町 倉敷市 玉野市

目に見えない環境汚染時代を生き抜くために38

環境ジャーナリスト 佐藤恵里

◇中央構造線の脅威
◇阿波忌部とその農法に日本の未来を見る


 皆さま、ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか。日頃は激務をものともしないタフな会員の皆さまも骨休めができたことを願っております。筆 者はかねてより計画していた宮崎県〜熊本県への旅に加え、NPO活動でお世話になっている山梨県小菅村の源流祭のお手伝いに大学生16名を連れて行って参 りました。気にしていた中央構造線が活動を始め、熊本地震は発生から3週間経ちましたが収束の気配はありません。被災者の皆さまには心よりお見舞い申し上 げます。

 日本列島は元々大陸の一部でしたが、2億年の歳月をかけて古い太平洋プレートが沈み込んで陸側プレートに付け加わることで形成されました。4億年 以前に元々大陸だった部分は隠岐島と能登半島周辺のエリア(隠岐・飛騨帯)のみ。約3億年前に北九州の一部と中国地方の一部、上越地方の一部が加わり、 2〜1億年前に中央構造線を挟むエリアが、1億年前〜250万年前に四万十帯と呼ばれるエリアが加わりました。棚倉構造線を境とした東北日本も約3億年前 から徐々に形成されました。

blog160511-1.jpg


 この中央構造線上には数々の有名な聖地や神社仏閣が並んでいます。南から幣立神宮(熊本県)、石鎚山(愛媛県)、剣山(徳島県)、高野山(和歌山 県)、天河大弁財天(奈良県)、伊勢神宮(三重県)、豊川稲荷(愛知県)、分杭峠(長野県)、諏訪大社(長野県)、氷川大社(埼玉県)、香取神宮(千葉 県)、鹿島神宮(茨城県)など。地殻の移動によって日本列島が生まれ天災が繰り返されてきたからこそ、古くから八百万の神々が祀られてきたのでしょう。

 また、中央構造線の近くには川内原発(鹿児島県)や伊方原発(愛媛県)があります。ご存じの通り、川内原発は新基準で再稼働を始めた2番目の原発 で、伊方原発も昨年10月に愛媛県知事が再稼働にGOサインをだしています。原発に代わりうるコスト、出力、安定供給の3条件を満たす代替エネルギーが見 つかるまで、と同知事は話していますが、自然災害による事故が起こってから「想定外だった」と言い訳をされても困るのが周辺市民です。

 脱原発に大きく舵をとったドイツはリーマンショックに巻き込まれて実質的デフォルト状態になったことでマスコミも市民も目覚めたと言います。前 シュレーダー政権時に決議された原発廃止の見直しを進めていたメルケル政権に抗い、連邦環境省が圧力に屈せずに原発周辺地域の白血病や癌の罹患率の高さを 発表したのです。マスコミも原発政策の間違いを指摘する番組を放映し、ついに選挙で負け続けるようになったメルケル首相の脱原発宣言に結実したものです。

 『ドイツから学ぶ「希望ある未来」』(地湧社)の中で著者の関口博之さんは、還暦後に4年間ドイツに暮らしながら、政治、企業、農業、金融、マス コミのそれぞれの歴史や動きを分析しながら、各分野の競争原理に基づく動きに市民が連帯して抗う力を持ちえたことが脱原発の鍵となったことを指摘していま す。日本では某大臣が口にしたように、何でも最後は金目で解決されてきたのでしょう。同著に紹介されている次のようなドイツの政策を日本でも導入して頂き たいものです。

1. ドイツの政治家は日本のように破格の報酬を得ず、特別高い地位が与えられている訳でもなく、地方議員にいたっては無給の「名誉職」
2. 環境保全型農業経営に補償金を支払う制度
3. 競争よりも連帯を育む教育。幼稚園〜大学授業料の無料化。
4. 中小企業や低所得者層への大型減税政策による内需活性化
5. 金融取引税の導入

blog160511-2.jpg


 日本は今、岐路に立っています。しかしながら、原発の安全神話が復活し福島は除染すら終わっていないのに既に過去のものとなってしまったかのよう です。原発が存在する自治体が補償金で賄われて潤い雇用が創出されてきたことは誰もが知るところですが、同じことを繰り返していては将来世代にツケを回す ばかりです。未曾有の天災は起こりうることを前提にした抜本的な改革を断行し、脱原発に向けた廃炉事業を推進しつつ、新エネルギーや蓄電分野などでのさら なる技術革新を願うものです。

 電磁波による環境問題においても、人体への影響よりも企業の営みを慮る仕組みを目の当たりにしていました。電磁波問題の調査を開始してから20年 がたちますが電磁波を取り巻く環境は全く改善されていません。目に見えない環境汚染時代を生き抜くためには『自分の命は自分で守る』ことが原則です。一 方、電磁波対策先進国のドイツでは86年のチェルノブイリ原発事故後に目覚めた市民の力で発足した再生可能エネルギーによる市民電力会社やその営みを支え る技術企業や財団が活躍しています。

日本においても、同じことを繰り返さないために市民がたちあがり地元資本による小規模分散型の発電設備の設置を始めています。福島県では会津電力株式会 社が福島県の使用電力を当面は太陽光で、将来的には水資源の豊富な会津の水力発電で供給すべく取組みを推進しています。猪苗代湖や只見川・阿賀川水系で約 500万kwの発電力と推定され、福島県全域の使用電力を十分に賄えるとしています。

blog160511-3.jpg


 企業や自治体でも独自のエネルギー対策を始めており、今月から家庭などに向けた電力小売りが全面自由化され、電力会社や電気プランを自由に選べる ようになりました。どのような対策が個人レベルで可能か、次回の拙稿でご紹介したいと思いますが、電力自由化の背景には311による甚大なる犠牲があった ことを忘れてはならないでしょう。全国各地で地域主導型の自然エネルギー事業に取組む組織のネットワーク、全国ご当地エネルギー協会(http://communitypower.jp/)でまずは地元の選択肢をチェックしてみてはいかがでしょうか。

◇阿波忌部とその農法に日本の未来を見る

 今回は、3月に訪れた徳島県の剣山系(山間部集落)で受け継がれてきた農業文化遺産についてご紹介したいと思います。昨秋に上記タイトルを掲げた 講演会に参加し、阿波忌部が古代日本に与えた影響の大きさにただただ圧倒されました。阿波国(粟国)は7世紀後半に律令制のもとで成立し現在の徳島県に存 在していました。忌部族は古代より祭祀を中臣氏と担当し、穢れを忌み清める集団として大和王権の成立前の2世紀後半から4世紀頃に日本各地に進出しまし た。

 以前、千葉県の館山市を訪れ安房神社や名所旧跡を巡った折に、安房国は四国の阿波から弥生時代に流れ着いた人々が築いたことを聞いてはおりました が、その人々こそ阿波忌部族だったのです。当時は房総エリアに影響を与えた程度と考えておりましたが、それは大間違いでした。忌部族は麻・穀を植え、農 業、養蚕、織物、製紙、音楽(弦楽器)、建築、漁業、農業土木技術などを近畿や関東全域に伝え、大和王権の立役者となったのです。

 衣食住の全てのルーツが阿波忌部にあることを確認すべく、阿波忌部族が行っていた古代農法が数千年も受け継がれ、山間部の傾斜地で自然に則した形 で営まれている現場を視察させて頂きました。文字通りのV字型渓谷の急斜面で行われる傾斜地農法で多品種の作物が栽培されている様子は壮観そのもの。傾斜 は最大で30度に及び上から斜面を見降ろすことすら恐ろしいところで高齢の農家の方々が広範囲で農業を営んでいる姿に驚きを禁じ得ませんでした。

blog160511-4.jpg


 近代に至るまで焼畑農耕が栄えたV字型渓谷だからこそ種が飛ばずに育まれたと阿波忌部研究第一人者である地元高校社会科教諭の林博章先生は語ります。地 元に『麻』のつく地名が多く残されているのは、麻や穀の栽培が盛んであったから。阿波国一の宮の大麻比古神社は大麻を神様として祀っています。天皇が即位 儀礼の大嘗祭で身に纏うアラタエは伝統的に阿波忌部が貢進しており、麻の栽培から製造まで本来は徳島で行わなければならないものを今上天皇の大嘗祭では栃 木と群馬の力を借りたそうです。

 麻と日本人との関わりは世界一古く、強靭な麻の繊維は縄文時代から様々な生活文化に使用されてきました。麻文化は戦後の大麻取締法により制限され 次第にその地位や栽培面積も減少し麻産業や文化の存続すら危ぶまれているそうです。下記の通り、麻は日本文化と切り離すことができない数多くの分野で使わ れてきました。阿波忌部の視察を通じて、阿波藍が平安時代に麻布を染めることから始まったことや阿波和紙の起源が麻紙であったことを知りました。 

@ 衣(麻糸、麻織物、麻布)
A 装身具(首飾り、帯など)
B 生活用具(麻紐、麻袋、馬具手綱、蚊帳、凧糸)
C 漁業(釣糸、漁網、舟綱)
D 狩猟(弓弦)
E 建築(漆喰、天井材、壁)
F 産業(麻紙、畳糸、下駄など)
G 食(麻実、七味とうがらし)
H 神事(大麻、御幣、神御衣、注連縄、御札、鈴縄、狩衣、横綱、太鼓の注連、松明、文楽)

 古代阿波忌部族が麻の種と栽培技術を携えて到達した地が栃木県であり、江戸時代には商品作物として栽培され、明治から現在に至るまで日本一の生産 量を誇っています。阿波忌部の講演会に誘ってくれた友人は栃木県小山市の白鴎大学の教授ですが、林先生によれば、小山市の阿波神社は、平安時代の延喜式の 神名帳に載る格式ある神社で館山市の安房神社から分祀された阿波忌部ゆかりの神社であり、小山市には忌部姓の住民も二十数件残っているとのこと。

 知れば知るほど興味が湧いてくる阿波忌部ですが、傾斜地農業に話を戻すと、その農文化にはカヤが欠かせないそうです。土壌流出を防ぐ高度な知恵と 技術がカヤの施用で受け継がれており、伝統農業のシンボルとされる円錐状のコエグロ(写真右下)を作って冬場を凌ぎ、そのカヤを春に傾斜畑に投入して土壌 流出を防いでいます。カヤには、施肥効果、雑草防止、保水力、保温力、ミミズ、微生物などの養成など多岐にわたる効果があります。その他、地元の結晶片岩 を用いた石垣も土壌流出を防ぐ役割を担っています。

blog160511-5.jpg


 約100〜700メートル内にある集落は周囲を森林に囲まれており、鎮守の森と共に風害や水害、霜害を防いでいます。傾斜地の標高や傾斜度、日照量、気 候や地勢に応じた農業が営まれていることが最大の特徴であり、持続可能な農業知識や技術の宝庫となっています。地元の農家の方々に、これほど美味しい作物 をなぜ販売しないかと尋ねると、自分達で食べられるだけのものがあれば充分との答えが返ってきました。だからこそ何世代にも渡って無理なく受け継がれてき たのかもしれません。

 林先生の長年にわたる調査研究の努力によって、『徳島剣山系の傾斜地農耕システム』世界農業遺産として登録すべく2月末に国内管轄の農林水産省に 申請したそうです。世界農業遺産はFAO(国連食糧農業機関)が開始した仕組みで、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた農業上の土 地利用、伝統的な農業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農業システムをFAOが認定するしく みです。

 世界では15カ国36地域が認定されており、国内では8地域が認定されています。

@ 新潟県佐渡市(トキと共生する佐渡の里山)
A 石川県能登地域(能登の里山里海)
B 静岡県掛川周辺地域(静岡の茶草場農法)
C 熊本県阿蘇地域(阿蘇の草原の維持と持続的農業)
D 大分県国東半島宇佐地域(クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環)
E 岐阜県長良川上中流域(清流長良川の鮎)
F 和歌山県みなべ・田辺地域(みなべ・田辺の梅システム)
G 宮崎県高千穂郷・椎葉山地域(高千穂郷・椎葉山地域の山間地農林業複合システム)

 視察は林先生の他、つるぎ町の地域おこし協力隊に応募して移住して半年の青年が案内役として同行してくれました。視察団メンバーの東京都内で干し野菜の 製造販売を行っている若き女性起業家は傾斜地農法でつくられた数々の野菜や果樹に感動し、現地に拠点を早々につくってしまいました。徳島剣山系の傾斜地農 耕システムは高齢化や後継者不足でピーク時から半減してしまったそうですが、晴れて世界農業遺産に登録され、若い世代の力で復興されることを期して本稿を 終えたいと思います。

blog160511-6.jpg